【 あいからの鎖 】
歪んだ家庭環境故に人間関係の構築がろくに出来ずに、死にたいと感じる少女と、それを「殺しかける」約束をした少年を描いた、異色の中編ノベルAVG。
EDは、最後の選択肢で分岐する2種がありますが、それまでの展開は基本的に一本道です。
プレイ時間は4時間程度です。
*自殺・自傷・殺人などのやや残酷めの描写、かなり精神的に重めの描写を含みます。
恋人にまたフラれた、主人公・浪榎-ナミカ-。
浪榎は、恋人に依存してしまう、だけどそれ故に、依存先のない状態、ひとりではいられないのだ。
彼のために自分すら変えて…だけどそれを「重い」とフラれることを繰り返す。
そして中学の時に、人を殺しかけたあの事故のことも頭をちらつく。
もう、死んでしまおう。
屋上への階段を登るが、屋上には鍵がかかっていて、飛び降りることはかなわなかった。
だがそこにクラスメイトの葦阿-イクマ-が現れて…
葦阿は今、世間を騒がせている連続殺人鬼だという。
そして、望み通りに浪榎を殺してくれるという。
だけど浪榎は、首を絞められるあまりの苦しさに、死にたくない、と叫んだ…
浪榎と葦阿の奇妙な関係、そして浪榎と亜美の友情、浪榎の複雑な家庭…を描いたノベルゲーム、になります。
死にたくない、と土壇場で足掻いた浪榎は、そこで葦阿と話し合い「浪榎が死にたくなったら浪榎を葦阿が殺しかける。そしてそれにより葦阿の殺人衝動を抑えて極力事件が起こらないようにする」という約束を得ます。
…奇妙な約束でしょ? もうこの時点でメチャクチャ面白そうでしょ? メチャクチャ面白いんですよ。
浪榎の唯一の友人、亜美。
亜美は人気者で、浪榎がいなくても他の友達とだって楽しく過ごすことはできる。
だけど、亜美は絶対に、浪榎を見捨てることはない…。
そしてゲーム後半に、亜美の身につらい事件が降りかかり…そこで浪榎は、亜美の本音を聞くことになります。
葦阿と浪榎は、その約束をしてからは、ずっと一緒に帰宅することになります。
友人とも言えない、だけど恋人ではありえない、奇妙な関係。
葦阿の特殊な倫理観、そして、葦阿は頭が良く、優しく、浪榎の悩みを聞いては、解決策やその他の言葉をくれます。
だけど、葦阿は、浪榎を殺さないにしても瀕死にすることで殺人衝動を抑える殺人鬼で…。
出会い頭には首を絞め、公園ではまるで恋人同士のようにキスをしては口と鼻をふさぎ窒息させ、足首に縄をつけて屋上から浪榎を中吊りにぶら下げて…。
浪榎は殺されかけるたびに、だけど葦阿の殺人衝動を抑える役に立てているのだと実感します。
そして話すたびに、葦阿への信頼が高まってゆきます。
だけど町では、別の連続殺人が起きていた…。
さらに、ぐちゃぐちゃで冷え切った家庭環境だった浪榎に、親子関係を改善するきっかけが訪れて…
葦阿は独自の理論で殺人を肯定し、そして反面、浪榎を気遣ってみせる…、そんな、どこかちぐはぐな彼の正体は、エンディングになればわかります。
自分の価値、家族関係、恋人に求めるものと期待、そして恋人を失ったときの浪榎の行動。
どれも、感情がすごくリアルに書かれていて、ゲームをプレイしているというより、誰かの手記を読んでいるような気分になる瞬間が何度もありました。
こじれていた、浪榎と母親の関係も、母親の語った理由もまたリアルで…
だからこそ、このゲームにはのめりこめるだけの魅力がありました。
キャラクターの立ち絵も、表情だけじゃなくてポーズも変更され、時折挟まるスチルも含め、柔らかな画風は、殺伐とした本編にいい意味で似合わず、どこか違和感をずっと抱えているこのゲームを彩りました。
このまま埋もれてほしくないと強く思います。
良いゲームでした。
*こちらはティラノゲームフェス2018参加作品です。
このティラノゲームフェスでは、応募されたゲームを遊んで感想を送るだけで豪華賞品が当たる、オンラインゲームイベント。
ゲーム制作者側も、ゲームプレイ側も、ともに盛り上がることのできるイベントとなっています。
ティラノゲームフェスは現在開催中! みんなで盛り上げよう!!
感想やブログでの取り上げ、とても嬉しかったです。誰かの手記のような、と表現してくださったのは、リアリティを出したかったため、良かった、という思いです。
記事を確認させていただきましたが、このままでも問題ありません。レビューと合わせ、改めてありがとうございました。
本当に素晴らしい、というしかないゲームで、読んでいてぞくぞくしたし、最後まで読み切ってエンディングまで見届けたい気持ちと、物語が終わってほしくない気持ちのせめぎ合いを、久しぶりに体験しました。
記事も確認いただいてありがとうございます。
ちょっとでも多くの方に遊んでほしいと思う気持ちで、記事にして紹介させていただきましたが、ティラノゲームフェス終盤に、改めて紹介の機会を設けさせていただきますね。